施餓鬼の由来を尋ねれば 目連尊者の母君の
逃れられなき罪により 餓鬼の世界に落ち給う
見るに忍びぬ苦しみは 慳貪邪見の報いにて
豊かに飲み物食べ物が 目に見て前にありながら
食することも叶わずに 皆これ炎となり果てる
恩愛深き母君の 傷ましいかな哀しかな
餓鬼の悩みを受け給う いかなる手段を行のうて
救い上げんとさまよえり 挙げ句に如来のもとに行き
涙の袖をしぼりつつ 事の次第をうちあけて
お願いこえば有りがたや 大慈大悲のお心に
知恵柔軟な御言葉 これこれ目連聞きなされ
山より重き餓鬼の罪 易々免るる法もなし
されども汝が報恩の 真心深く奉ぐれば
必ず救い給うぞよ 来たるは七月十五日
自恣のその日を待たれよと 待ち得てあまたの菩薩たち
心一つに供養せば 父母のみか現在の
危難窮苦の者までも 皆これ昇天極楽ぞ
この法修業の孝行は 己が父母のみならず
七世の父母の為となる 縁に不思議はあるとても
親の慈愛を受けぬ者 誰がこの世に在るあろう
山より高き父の恩 知るこそ道の始めなれ
雪の降る日も風の日も 灼熱地獄の夏の日も
我身は外にさらせども 暑さ寒さも無いようと
己を責めて子を囲う 妻子の知らぬ所でも
朝夕山河に交わりて あるいは世間に浮き沈み
あふるる涙の多かりき 頼れし家族のいとおしさ
ほほえむその顔励みとし 口にはすまいぞ愚痴苦労
海より深き母の恩 知るこそ徳の始めなれ
子守の母のまめやかさ 己がふところ寝床とし
か弱き腕を枕とし 骨身を削るあわれさよ
美しかりし若妻も 幼子ひとり育つれば
花のかんばせいつしかに 衰えゆくこそ悲しけれ
骨さす霜の暁も 誰より先に起きいでて
門口清め水を汲む 朝餉の支度に凍えつつ
着たるを脱ぎて子をつつみ 甘きは吐きて子に与え
苦きは自ら食うなり 懐汚し背をぬらす
幼き者の常なれど 不浄を厭う色もなし
父母は我子の為ならば 己を捨てて子を救う
我子他家の子平等に 見守る眼差し衰えて
知らず知らずに子をかばい ひいきのあまり腹を立て
悪業作り罪重ね 修羅道飢餓道近づけり
皆是れ罪と知りながら 家族の命を養わば
たとい地獄に堕つるとも 少しの悔いもなきぞかし
己の息あるその内は 子の身に変らん事願い
己の死に行くその後は 子の身を護らん事願う
よる年波の重なりて いつか頭の霜白く
衰えませる父母を 仰げば落つる涙かな
ああありがたき父母の恩 子はいかにして酬ゆべき
目連、如来に導かれ 母のみならず一切の
餓鬼畜生を救わんと 教えのごとく行えば
母もろともに残りなく 餓鬼諸々の悪道を
みな速やかに消滅し 踊り踊りて喜べり
かくありがたき御教えを なぜにたやすく思えよか
恩ある親も我も皆 可愛き人も恋しきも
唯朝顔の花の露 遅れ先立つ道なれば
昨日見し人今日は無し 老いも若きも仇野の
空の煙と消え失せて 涙と共に入相の
鐘を聴くにも悲しけれ 生死無常のことわりぞ
千歳の松も枯れぬるに この理を忘れ欲深く
千万年も生きいんと 思う心の貧しさが
あらゆる罪を作るなり 心を留めるな仮の宿
金銀財宝地位名誉 有るにつけても愁いあり
無きにつけても愁いあり まことこの世は地獄なり
早くその地を出で来たり 涼しき教えに会えかしと
真実深きみ佛の 慈悲を思えよ疑うな
親の命を戴きて 天地の恵みに育まれ
俺が俺がの我を捨てて おかげおかげの偈で暮らす
報恩感謝を勤むれば 惜しむ心も消え失せて
たとい僅かな米粒も あらゆる国土一切の
餓鬼畜生人間も 安らぎ覚えて飽満し
慈悲の施し浄らかに 我も佛となりにける
消えてゆく 露のいのちを そのままに
蓮のうてなに 往くぞ うれしき
願わくば此の功徳を以て 普く一切に及ぼし
我等と衆生と皆共に 仏道を成ぜんことを
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